「新型コロナで世の中は大変な状況ですが、この状況にも関わらず業績を拡大している企業様と取引を開始することが出来て、今は人手が足りていない状況です。今後は生産量を増やすために、従業員を追加募集したうえ、工場も増やす予定です」
と、先日嬉しそうにある経営者の方は語ってくれました。

 この経営者の方は、一昨年、納入した製品に多くの不良が検出されたことで、取引先企業から取引量を減らされ、まさに大きな損失(経営インシデント)を発生させてしまったのですが、これをきっかけとして弊社にご相談に来られた方です。取引量の減少に伴い、会社経営の先行きの不透明さに大変悩んでおられました。

 しかし、きっかけはともあれ今回のような、ようやく訪れた業績回復の兆しは、会社の成長を推し進めるうえで、逃してはいけない千載一遇のチャンスであり、大変嬉しいご報告でした。

 この方が弊社にご相談に来られた時に発生していた製品不良の大きな原因は、製造工程における作業の複雑化でした。
 当時は業務の可視化もできておらず、多くの潜在的な問題が潜んでいました。そのため、正しくリスク評価を行い、複数の問題に対して正しく優先順位をつけたうえでインシデント対策を進めました。

 一昨年からの取り組みということもありこの潜在的な問題は概ね改善していると思い、問題への対処は完了しましたかとお聞きしたところ、回答が芳しくありません。報告を受けていないので、分からないとおっしゃるのです。
 この経営者の方が報告を受けていないということは、おそらくすべての問題を取り除くことができていないのでしょう。 改善がされないまま製造活動が継続されれば、不良品を再度発生させてしまうことは必然です。
 以前お伺いした際には、根本原因(手順の複雑さ)に対する対策として、作業手順を整理して標準化すること、機を見てこの手順を機械化・自動化すると仰っていました。

 本対策とした理由としては、当作業に従事している従業員の方々は離職率が高く、作業の熟練度の向上にも期待が出来なかったからです。
 この状態のまま、工場を拡大し新たな従業員を増員して増産に踏み切れば、きっと製品の不良が再発して損害額も大きく膨らんでしまうでしょう。

 好況の追い風に乗って生産基盤を強化することは、会社としての成長に向けた戦略です。しかし、リスクが拡大することを念頭に置かなければ、会社の危機にも繋がってしまうということです。

 そもそも、この会社における一番の収入源は部品を製造して顧客に提供することです。

 この製造作業のプロセスに、会社に損失を与えてしまう要素があるならば、対策を打つことは必然です。生産規模の拡大は、利益拡大のチャンスでもありますが、一方でさらに大きな損失をもたらす経営インシデントに繋がる懸念もあります。

 もし、生産規模の拡大を急ぎ実施したいと考えるのであれば、改めて起こり得るリスクに向き合うべきです。発生時の損失の大きさや発生する可能性が変わるためです。新たな変化点となる「生産量の増加に伴って不良品も相乗的に増加する」ことや「作業手順に不慣れな従業員が増えると作業ミスが起きやすくなる」ことに着目する。そして、分析した結果をどのように評価するのか、そして評価結果に従ってスピード感を持った対策を講じるべきなのです。

 経営インシデント対策のスピードが遅れた結果、増産におけるリスクが大幅に上がったことは間違いないでしょう。
 会社として増収戦略とともに、損失の最小化のためのリスク評価は必然なのです。
 会社が被る損失が大きくなり、重大な経営インシデントとなってしまえば、会社の存続さえ危うくなってしまうでしょう。

 損失をもたらしてしまう要因が何であるのか、そしてどんな影響が出てしまうのか。今まで目を瞑ってきた経営リスクと再度向き合ってください。今回のようなチャンスを確実に掴み取る準備をすることが、経営者の使命なのです。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部