~ 社員の共感・協力を得なければ企業の成長は鈍化する ~

 前回コラムでも簡単にご紹介させていただきましたが、DX推進において重要なのは、まず初めに経営者がDXの本質を理解すること、そして次に会社のビジョンを明確にし、社員の共感を得ることです。今回のコラムはなぜ社員の共感を得る必要があるのかをテーマに、簡単な失敗事例を踏まえてご紹介させていただきます。

【DX推進における失敗事例(※1)】
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 ある製造業の企業が、新しい生産管理システムを導入しました。このシステムは、生産ラインでの品質管理や在庫管理を自動化することができるものでした。しかし、従来の生産管理方法とは異なるため、従業員たちは新しいシステムの操作方法に戸惑い、業務プロセスの変更を受け入れることができませんでした。

 特に、長年にわたって同じ方法で作業を行ってきた従業員たちは、新しいシステムの操作方法に馴染むまで時間がかかり、業務の生産性が低下しました。また、システムの不具合やトラブルも発生し、その対処に追われることになりました。さらに、従業員たちは、新しいシステムに対する不安やストレスを感じ、モチベーションの低下につながってしまいました。

 生産性を高めるために導入した生産管理システムですが、イニシャルコスト(システム導入費、運用変更に伴う教育費等)だけでなく、トラブル対応にかかるコストや、従業員のエンゲージメントの低下など様々な損害を発生させることになりました。
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 システム操作に馴染めない、業務プロセスの変更を受け入れられない、システムの不具合に忙殺されるなど、このような失敗事例は本当に良く耳にする話です。特に中小企業においては、このような問題が多く起こりうるということがわかっています。また、その発生原因の一つとしては、中小企業の労働生産性の低さがあると言われています。

 労働生産性が低い状態とはつまり、そもそもの業務プロセスが旧態依然であり、また競合他社との低価格競争等に巻き込まれ、日々の日常業務に忙殺されている状態であるということです。

 そもそも業務に逼迫している状況で新たなシステムを習熟しようとしても、時間と余裕がないのは明白であり、また、様々なトラブルに直面してしまえば、不安やストレスを溜めていくといった悪循環になるのも必須です。

 また、もう一つDX推進を阻害する少しネガティブな要因は、そもそも社員はIT化が進むと自分自身の存在価値が薄れるのではないか、仕事を奪われるのではないか、そうなると給与が下がるのではないか、といった不安から、変化を歓迎しない感情になりやすいということです。特にベテラン社員の方は、今までの業務プロセスにより習熟して馴染んでいるため、新しい仕組みを取り入れるメリットよりも労力がかかるデメリットを強く感じることから、拒否感を示しやすい傾向にあります。このような要因が積み重なり、変化を強いられることは、生産性の低下やモチベーション低下につながります。

 繰り返しになりますが、社員の感情としては、このような日々の業務に追われ最終ゴール(将来の安定性)も見えない状況下において、DX推進という名目で変化を押し付けられても、とても前向きに協力しようという気にはならないということです。ですから会社の明るいビジョンを明確にし、社員の共感を得ることが重要になってくるのです。

 社員が会社のビジョンに共感し、DX推進へ前向きに取り組むことが出来れば、間違いなく企業の成長に大きな影響を及ぼします。

 社員が日々の業務に忙殺されている状態でDXを推し進めるには、必ずサポート体制を構築する、現実的な段階スケジュールを立てる等、様々な考慮・準備が必要となります。

 また、将来的な不安に対しては、社員の意見を聞き不安に寄り添うこと、従業員の意識改革やサポート(例えばIT化における研修やトレーニング等)を行うこと、将来のビジョンを共有してもらうこと、も必要となります。

 会社の成長、そして将来の社員の生活を守るための取り組みとして、DX推進の舵取りをするのが経営者の使命ではないでしょうか。

株式会社ライターム
コンサルティング事業