緊急事態宣言でテレワークが急速に広がる中、弊社と取引のあるお客様が「私はテレワーク用にiPadを購入しました。奮発してMagic Keyboardも購入したので、これで快適な環境が整いました。」とおっしゃっていました。

 このiPadという製品、皆様もご存じのとおり、アップル社が販売するタブレット端末で、PCにも引けを取らない性能と機能を備えた素晴らしい製品です。アップル製品がお好きな方であれば、誰もが喉から手が出るほど欲しいものかもしれません。その方も以前から気になっていた製品を手に入れたことに非常に満足しておられました。

 先日、再びお話をする機会があったので「その後のテレワークは快適ですか?」とお聞きしたところ、「テレワークにはすっかり慣れましたが、iPadはイマイチ自分には使い勝手が悪く・・・」とのこと。

 世間で高い評価を得ている製品を使っているにも関わらず、なぜ愚痴をこぼすような状況になってしまったのでしょうか。長くIT(情報技術)を利用する仕事に携わってきたのでよくわかるのですが、それは、製品(技術)を選ぶときに何が目的かという部分で大きく道を外してしまったからです。

 この方は最初に購入の目的を「テレワーク用に」とおっしゃいました。個人の端末を使って仕事をすることが認められている会社でしたので、性能の良い製品を自分で選んで購入することは何も間違っていません。

 しかし、この方の仕事は完全なデスクワークで、テレワークでの作業もPC上での資料作成とオンラインによる会議がメインです。また、資料作成は主にMicrosoft Office、オンライン会議にはZoomを使用します。これらの状況を踏まえて作業環境の改善という目的を考えた場合、果たしてiPadは最適解だったのでしょうか。

 おそらくですが、この方のiPad購入の一番の目的はiPadを所有することであり、高価なものを購入するために、テレワーク環境の改善という大義名分を後付けしてしまったのかもしれません。そうだとすると、「テレワークで使い勝手が悪く…」も納得です。

 iPadの良さである軽量タブレットは部屋から動くことのないデスクワークではあまり力を発揮しません。12メガピクセルの広角カメラもオンライン会議をするうえでは必須ではありません。結局、iOS上で動くMicrosoft Officeが事あるごとに落ちてしまう、という使い勝手の悪さだけが残ってしまいました。もし本当にテレワーク環境の改善を目的に製品を選んでいれば、異なる選択肢も検討していたことでしょう。

 会社経営を考えるうえで、ITは切っても切り離せないものとなっています。もちろん、経営の安定化と成長を実現するインシデント対策を考えるうえでも非常に重要な要素となります。そのITの利用を検討するうえで最も大切なことは、成し遂げたい目的に対して利用しようとしているITが最善の方法かどうか、を考えることなのです。

 ITは単なる道具でしかありません。そのため、うまく使いこなすことが出来れば心強い武器になりますし、うまく使いこなすことが出来なければ無用の長物になりかねません。道具は手にすること自体が目的となってはいけないのです。

 将棋界でAIが席巻しているのを見てAI搭載と書かれている製品はスゴそうなので使ってみよう、テレビCMでクラウドという単語をよく耳にするのでクラウドサービスを利用すれば何かが変わるはずだ、と考えてITを導入するのではダメなのです。

 AIもクラウドも本当に素晴らしい技術であることは間違いありませんので、会社の成長戦略にうまく組み込むことができれば、会社の輝かしい未来を描くことの一役を担えるかもしれません。だからこそ、会社の目指すべき姿を実現するために本当に使える道具であるかを真剣に考える必要があります。

 だからといって、ITの仕組みを理解する必要があるというわけでは決してありません。ITという道具で何ができるのか、何ができないのかを理解して、上手に利用すればよいのです。使い方がわからなければ詳しい方に聞いてみるのもいいでしょう。ただ、良い部分だけを聞いて「この製品が欲しい。」となってしまわぬよう、くれぐれもご注意ください。

 あなたは、道具を手にすることに満足して終わりますか? 道具の本質を理解してうまく利用しますか?

株式会社ライターム
コンサルティング事業部