昨年9月にデジタル庁が発足してから半年が経過します。メディアでもその成果について論じられ始めていますが、目に見える成果が現れていないという意見が多いようです。

 2000年に提言されたe-Japan戦略の内容が遅々として進まない状況下において、デジタル庁が、他省庁に対して勧告権を持ったとしても、改革はなかなか進まないのが実情でしょう。デジタル庁自体が内閣直轄の扱いであっても、実質的に他の省庁と並列の扱いでは、リーダーシップをとることもままならないでしょう。

 企業においても、DXを成功させるために誰がリーダーシップをとるのかが、企業変革のカギになってきます。

 先日お会いした経営者の方が、「わが社のDXも順調に進んでいます。信頼できる役員が、ITに精通しているのでDX推進を一任しています。昨年も事務作業のRPA化を進め、効率化を図ることが出来ました。」とお話しされていました。

 この経営者の方と3年前にはじめてお会いした時には、スマートフォンも通話機能とメールだけしか使えないほどITが苦手な方でしたので、DX推進をITが得意な方に託されたとのことですが、同じようにDX推進を社内の誰かに託している会社で、本当の意味でDXが進んでいる事例を聞いたことがありません。

 RPAの導入は事務作業をロボット化(自動化)する取り組みであり、人手を介する作業を減らすことにより、人為的なミスを回避することができ、効率化に大きな効果をもたらす素晴らしい技術です。しかし、個々の業務を改善するだけでは、会社を変革させることには、遠く及ばないのです。

 経済産業省では、DXを『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』と定義しています。DXで求められているのは、会社を変化させることではなく、変革させることだと言っています。つまり、デジタルを使って、会社を変革出来なければ、DXにはならないのです。

 例えば、事業の生産性を5%向上とさせるような取り組みは、会社を良くするための改善活動ですが、DXの場合では、事業の生産性を50%向上させてリードタイムを半分にするような、一見無謀なことを目指すことになります。やり遂げるためには、個別部門がひとつひとつの作業を改善しても目標には到達できません。全社的に、今の仕事のやり方からデジタル技術を使って、イチから作り直すほど抜本的に手を入れなくては、達成出来ないでしょう。

 会社を変革させるとは、こういうことです。

 ではITが得意な社員の方にDX推進を任せて、会社を根本から変えることが出来るのでしょうか。

 まず間違いなくできないと申し上げられます。

 抜本的に仕事のやり方を変えれば、個別の部門内に軋轢も生じるでしょう。なぜ部外者が、自分たち仕事に口出しするのかとクレームを受けることもあるでしょう。実現するためには費用が必要になり、導入当初は効率が落ちて年度の利益額が減少することさえ、あり得ます。「根本から変革しろ」と指示した経営者が、DX推進を兼務されている社員に向けて「なぜ売り上げが落ちているのか」と叱責してしまえば、誰もDX推進などやりたがりません。

 DXを進めることは、リターンが大きくなる分、リスクも大きくなります。信頼できる社員であっても、この大きなリスクを背負ってしまえば、失敗を恐れて抜本的に変革することを躊躇してしまいます。

 では誰が中心になってDXを進めるべきなのか。

 このリスクを背負えるのは、経営者以外には、いないのです。

 推進担当に抜本的な変革の実現を求めても、忖度なしに進めることなど不可能です。あなたが信頼する社員に権限を与え任せていたとしても、結果を待ち続けることは、ことDXに関しては無責任としか言えません。仕事のやり方を変えて複数の部署を統合することや、今の利益を置き去りにして、来年の利益を3倍にすることを目指すことなど、推進担当には決断することは出来ないからです。

 だからこそ、DXを進めて会社を根本から変革する役割は、経営者が担う以外にはないのです。

 経営者が、ITに精通していなくても構いません。自身に足りない部分については、ITに精通した社員や、社外のベンダの力を借りるなどして、補えばいいのです。これは企業変革のための手段にすぎないのですから。しかし、会社を経営していくリーダーシップと最終的な決断は、経営者以外には絶対に出来ないのです。

 会社をまるごと変えていく。このために、信念を持って社員全員を引っ張っていく。経営者にしか出来ない役割は、時代とともに形が変わったとしても、その根幹は変わりません。

 あなたが、何を求めているのか。そのために、何を決断するのか。

 経営者が何を問題として捉え、どう変革しようとしているのかまで、伝えていくことが、きっとあなたの会社の社員の方に浸透していく最善の手法ではないでしょうか。

 DXを進めることを決意したのであれば、経営者が先頭に立つということを今一層の決意をもって、変革への道を進んでください。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部