政府のコロナ対策も緩和され、先日久しぶりにお会いした企業の経営者の方が、「弊社には、お客様と会社のことをすごく考えてくれている社員がたくさんいます。彼らが自主性を持って行動してくれているので、顧客満足の向上にも繋がっています。これからも今のまま社員が自主性を発揮してくれれば、会社は安泰だと考えています」とお話ししてくれました。

 社員の自主性が会社成長の原動力だと考え、なにより先に社員を褒める言葉を口にされる社長だからこそ、社員の方も会社のためにと頑張って来られたのでしょう。また、顧客の喜ぶ姿を見ることが経営の喜びだと考えている社長だからこそ、社員も顧客を大切にされているのでしょう。

 でも、社員の自主性に頼り続けることは、経営を安泰に出来るとは言えないのです。

 なぜなら、会社の価値が個人の自主性で成り立っているのだとすれば、彼らがいなくなれば、会社の価値も失われてしまうからです。

 自主的に実施する作業は、その人だけが行う作業です。ほかの社員にノウハウが共有されていない作業、スキルを伝えることが難しい作業などと同様に、属人的な作業であることに変わりありません。

 常に安定した質の良いサービスや製品を求めている顧客に、「昨日はやってくれたことを今日はやってくれなかった」と思われてしまえば、満足を提供することは出来ないのです。

 例えば、ある旅館の従業員が、利用客の好みを自主的にメモとして残すことで、再訪される利用客に好みを生かしたサービスを提供していたとします。
 
 食べ物の好き嫌いや枕の硬さなど、前回利用時の経験が情報として活かされていることで、顧客は、自分のことをよく憶えてくれていることに喜び、この旅館をまた利用したいと考えてくれるでしょう。
 
 しかし、別の従業員が、このメモを見ないで接客してしまえば、顧客は旅館のサービスが下がったと感じます。

 顧客の好みに合わせたサービスを提供することがこの旅館の価値であるならば、従業員が顧客の情報を共有できる仕組みを作り、顧客に対してどの従業員でも同じサービスが提供できるようにならなければ、旅館の真の価値にはならないのです。

 会社の価値は、顧客の思いに直結します。顧客が求めるものを提供出来れば、価値は高まりますが、出来なければ価値はすぐに下がってしまうでしょう。今、属人的に実施している作業は本当に必要なのか。必要ならばみんなで実施すればいい。もし不要な作業ならばやめてしまえばいいのです。

 しかし、そもそも仕組みが無ければその作業の存在に気づけないのですから、やるもやらないも判断することすら出来ません。会社をもっと良くするためには、まずは現状の業務を仕組みに落とし込んで判断ができる土台をしっかりと作り上げる必要があります。

 その土台と比較してプラスアルファで行っている作業により、作業品質は一定にならず、作業時間が増えて効率が悪化しているのであれば、そのプラスアルファの作業は不要です。逆に、そのプラスアルファが顧客を喜ばせることに貢献しているならば、重要な付加価値を生み出す必要な作業であり、仕組みに組み込むことで会社自体の価値を高めることができるのです。

 社員の自主性は、放任するのではなく、仕組みにして取捨を吟味すること。それが会社の変化へと繋がっていきます。いま業務の仕組みが、出来ていなくても、作り上げればいいだけの話です。

 社員の自主性から生まれた付加価値を会社としての価値に変え、社員がよりモチベーションを高くして行動する。この繰り返しが、あなたの会社を成長に導いてくれるでしょう。

 会社の仕組みを土台にして、社員が誇れるより良い会社にするために、社員みんなで変化に取り組んでいく。会社が進化する一歩を踏み出すために、今ある足場をしっかりと踏み固めてください。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部