先日お話した食品販売を生業とされている経営者の方から、「昨年、経理運用の簡易化と社内のペーパーレス化を目的とした、取り組みをしたのですが、経理部門の稼働時間に変化が見られません。経理部門のテレワーク導入も進まず、狙い通りの効果にならないのです」というご相談を受けました。

 詳細を伺ってみると、以下の事由により改善した運用が定着化していないとのことでした。

 ① 領収書や契約書類が、写真や電子化されたファイルで経理部門に連携される運用に
   変更したが、未だに紙で連携されている。
 ② 紙の書類管理も継続されている。

 この会社では、これまでの仕事のやり方をしっかりと分析したうえで、書類の電子化に向けた対策を導入していました。これにより利用者の利便性は向上する、書類の紙管理に係るコストも削減でき収入印紙代金の節約にもなる、そして経理部門のテレワークも可能になる、といった効果を見込んでいました。

 しかし、せっかく改善した運用も定着しなければ、期待していた効果を享受できないどころか、対策にかけた費用が回収できない投資となり、会社の利益を減少させるだけの経営インシデントとなってしまいます。

 それでは、なぜ新たな運用が定着しなかったのでしょうか。
 
 原因を見つけるために、「社員の皆さんが、今回の運用変更をどの様に捉えているかお聞きになりましたか」と、この経営者の方にお尋ねしたところ、「社員の反応までは把握していません。取り組みを始めるときには、各部門の責任者から説明していますし、特段問題点も聞こえてきてはいません」とのお答えでした。

 これをお聞きして、”利用者側の理解不足”が新たな運用を定着させない根本原因であるという事が分かりました。

 今まで慣れ親しんだ運用やルール等を変化させることに対し、多くの場合、人は拒否反応を示す傾向にあります。その変化が自分のためにならないと感じれば、それは尚のことです。

 この経営者の方は、この取り組みを各部門の責任者から説明したと仰っていました。しかし、社員の方がこの取り組みをどのように捉えたのかを把握していません。どのように伝わったかも知らないまま、運用されない原因が利用者にあるとするのは、傲慢と捉えられても仕方ありません。理解が不足した利用者からは、問題提起もされないでしょう。

 新たな取り組みを社員に定着させるための対策は、社員ひとりひとりに、対策の目的をしっかりと理解してもらうことです。このための努力を惜しんでは、新たな運用は定着しません。

 会社に変化をもたらすためには、経営者自身がその目的を伝えること。特に中小企業の場合には、会社の舵取りは、経営者の思いに大きく左右されます。なぜ、実施するのかの目的、実施することによって何を期待するのか、実施することへの強い思いが、社内に伝わらなくては、利用者が慣れ親しんだ行為を変える気持ちにはならないのです。

 社員全員が同じ方向を向くための後押しは、経営者がする。決して傍観者にならないでください。

 会社に変化をもたらすためには、経営者が先頭に立ち、社員を先導していくことが重要です。先頭を走る経営者が、汗をかいている姿こそが、社員の意識が一体化することに繋がっていくのだと思い描いて、進んでください。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部