先日お会いしたカタログ印刷を生業とされているA社長から、「作業者が不慣れなためか、作業ミスが増え、製品に関して納品先からのクレーム対応が多くなって困っています。ミスが見つかるたびに、作業マニュアルの更新は行っていますが、あまり効果がありません。ほかの会社ではどのような対策を取られているのか、参考になる例があれば教えて頂けませんか」と相談がありました。

 作業ミスによって、出荷製品に不良が混入してお困りになることはよくお聞きする話でもあります。
 新たな策を求めるために、他社の事例であっても謙虚に参考にしたいとのお考えでした。変化の重要性が繰り返し問われている今だからこそ、謙虚に会社に変化を取りこもうとされる姿勢は、経営者としてさすがと思わせられるものです。

 では、起きてしまったのはどのようなミスで、どのように対策されるのですかとお尋ねしたところ、「作業ミス自体は、単純なもののようです。とにかく対策として、納品前に最終点検する工程を設けました。このため、急遽人を募集して、この役を任せることにする予定です」とお応えいただきました。
 これをお聞きし、これが妥当な対策であるのか大きな疑問を抱かざるをえませんでした。

 なぜ疑問を抱いてしまったのか。それは、顧客からの受注量が変わらないのに人件費を増やすことは、利益を減らすことになります。つまり経営としての損失、すなわち経営インシデントになるからです。

 たしかに、確認工程を増やすことは、簡単に打てる対策です。しかし、この対策では、収益の増加に繋がる受注量=出荷量が増えなければ、出費が増え利益が減ってしまうのです。

 A社長が取られた策は、「作業ミスは単純なもの」と、課題をぱっと見で判断されたものであり、きちんと分析した上での結論だとは到底思えません。経営観点で見れば、簡単に利益を放棄することは選べないはずです。

 製品不良が発生したことは、作業ミスによって表面化した課題です。製品不良は、経営損失に繋がることは間違いありません。直接的な原因は人のミスです。この原因にだけ着目すれば、人が行う作業に間違いがないかを点検し、出荷の水際で防ぐことは対策のひとつではあります。

 では、人の作業ミスは、どうして起きてしまったのでしょうか。
 この原因を知っていれば違う対策をとることができたかもしれません。誰が、何を使って、どうやって仕事を行っているのか。これを知っていれば、より具体的かつ有用な別の解決案も浮かんでくるでしょう。「なぜこの事象が起きてしまったのか」の「なぜ」がないまま、人件費を増やして、利益をどぶに捨てるような対策を講じるなど論外です。

 表面化した課題にだけ手を打つことは、対処ではあっても、対策にはなり得ないのです。その場しのぎをしただけにすぎません。製品不良を混入した作業を紐解いてみれば、特定の作業者がミスを繰り返しているのかもしれません。作業工程の中に、複雑な手順が埋もれているかもしれません。

 ひとつひとつの手順は簡単なものであっても、作業の繋がりがマニュアルでは読取れなくなっていることもあります。単純作業を連続して行うことによる、集中力欠如が原因かもしれません。集中力の持続時間は90分程度と言われています。作業ミスとなる原因が集中力であれば、交代や休憩を挟むことが対策となるでしょう。
 もちろん、単純な作業や同じことを繰り返して行う作業であれば自動化、ITやロボットを導入することも作業ミスを防ぐ対策となるのです。

 表面化した課題に手を打つことで、当面の経営インシデントは防ぐことが出来るかもしれません。しかし、本質的な課題を見極められないうちは、いつかまた同様の課題が表面化してきます。

 本質的な課題に恒久的な対策を講じること、つまりは将来を見据えた変化を生み出すことが、長い目で見れば会社にとって最善の策となるのです。
 
 会社が変化するためには、何から始めるべきなのか。

ただお金をつぎ込むことや、斬新な何かを始めることではなく、会社の現状を見つめることから始めてみてください。
 表面化した課題だけでなく、埋没した課題もきっと発見できます。そして、あなたの会社にしかない素晴らしいことも、発見することがきっと出来るでしょう。会社の強みと弱みを見つめることで、あなたの会社がどこに向けて進んでいくのかを見直す、変化させるきっかけになるのです。

 始めは表面化した課題に対して、分析をすることで構いません。あなたの会社の業務を見つめること。一見、当たり前の取組みを本当に価値のある取り組みに変えるのは、経営者の姿勢・思いにかかっているのです。

 経営インシデントへの対策を始めたいが進め方がわからない、どこから手をつけたら良いかわからない等の困りごとがありましたら、ぜひ当社までご相談ください。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部