先日、東日本大震災の発生から、11年が経つという新聞記事を目にして、避難所生活に関するニュースを思い出しました。避難中の糖尿病の方が、インスリンが手に入らずに苦しんでおられたという記事です。学校の体育館に避難した際に、普段服用されているインスリンが手に入らずに、危険な状態に陥ってしまったことが書かれていました。

 自宅から最小限の物資を持ち出して、避難所に飲料水や食べ物を持ち込むことが出来た方もいましたが、多くの方は身一つでの避難です。道路の陥没など交通手段の影響からも、救援支援物資は最低限必要なものに限られ、水や食料、毛布などが優先されていました。このため、基礎疾患のある方への医薬品の提供もままならなかったようです。

 その方にとって無くてはならないものは、人それぞれであり、もし無ければ命に係わってしまうこともあるいうことです。

 この記事の伝える内容を会社の経営に当てはめると、会社にとって無くてはならないものとはいったいどのようなものか、考えさせられます。そしてそれを無くさないための対策を最優先で行えているのかと。

 インターネットの検索サイトやSNSでのトレンドワードを見ると、多くの会社で取り入れようとしている技術や取り組みを垣間見ることができます。AI(人工知能)やEC(電子商取引)のように既に一般化した言葉だけでなく、OMO(オンライン マージズ ウィズ オフライン)やUGC(ユーザー生成コンテンツ)のように比較的新しい言葉までが、上位にランキングされています。これらは、会社を安定させて成長させるために、デジタルの力を取り入れようと多くの企業で躍起になっていることの表れでしょう。

 もちろん、インターネットなどでよく耳にするデジタルの力は経営に活かすべきです。環境問題の解決にもつながるペーパーレス化を耳にして興味を持ち、コスト削減や効率化のためにペーパーレス化に取り組むことは、今後の経営において避けては通れない道でしょう。日本の労働人口の減少に備え、バックオフィス業務を改善するためにRPAの導入を検討することも、遅かれ早かれ必要になるでしょう。

 しかし、これらの取り組みは、会社にとって無くてはならないものを無くさない対策として、最優先で対策すべきことなのでしょうか。

 会社にとって無くてはならないものとは、事業を実践するために必要不可欠なものです。それが無ければ、事業を継続出来なくなり経営を続けることさえも出来なくなってしまうものです。極論を言えば、それが無くなると、経営が破綻しかねないものです。会社を経営する方であれば、そのようなものを失うことは誰も望まないでしょう。

 では会社にとって無くてはならないものを失わないためにまずすべきこと、それは必要不可欠なものがいったい何なのかを見極めることです。しかし、事業を営むために必要なものが何であるのかを一般論をもとに決めつけることは出来ません。糖尿病の方が、インスリンの不足で命の危険に晒されてしまうのと同様に、無くなると困るものは、どの会社でも同じというわけではないからです。

 金属やプラスチックの鋳造をされている工場であれば、金型が無くなってしまえば生産が止まってしまいます。果物を栽培している農家であれば、苗や木がダメになってしまえばその年の収入が途絶えてしまいます。どんなに自動化を進めた近代的な工場を作り上げて効率化を高めても、停電になってしまえば事業を続けることは出来ません。

 無くてはならないものが金型であれば、無くしたり壊れたりしないような対策が取られているのか。苗や木であれば、災害や害虫に対してどのような備えをしているのか。工場で利用する電気であれば、予備電源や自家発電装置を準備する必要はないのか。

 何を優先して対策し、何を後回しにするかは、あなたの会社にとって無くてはならないものを見つけ出したうえで、あなたご自身で決めなければなりません。

 会社が事業を営むために必要なものが無くなる要因は、いつ起こり得るか分かりません。10年後かもしれないですし、明日かもしれません。そして、一度起きてしまえば、経営が破綻してしまいます。

 会社にとって無くなると最も困るものが何なのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部