昨日、ご相談に来られた経営者の方が、「当社も順調にDX(デジタルトランスフォーメーション)化に向け、業務のデジタル化を進めています。今回新たに遠隔監視(センサー)を設置する予定で、作業者の負担を更に軽減させることが出来そうです」と仰っていました。 

 工場や事務作業におけるオートメーション化の流れは、新型コロナウィルスの蔓延により、浸透の速度を上げています。この経営者の方も「当社のような中小企業でも、デジタル化への取り組みが更に必要になるという考え方を社内にも根付かせたい」と熱心に語ってくれました。 

 この経営者の方が思い描く会社の将来像がどのようなものなのか興味を抱き、「どのような計画を立てて取り組む内容を決められているのですか」とお聞きしたところ、「長く取引させていただいている銀行の担当さんから、当社にあいそうな新しい技術を次々に提案していただいて、その中から金額的に可能な範囲で選ぶようにしていますよ」。 

 これをお聞きし、この経営者の方が、他者の考えた案ありきで対策を決めているのではないかと、危惧してしまいました。せっかく実施する取り組みです。もっと、優先して取り組むべきことはなかったのでしょうか。 

 もちろん、作業者の負担を軽減させることは、仕事を便利にすることであり、重要な変化のひとつです。たとえ、他社からの提案であっても、あなたの会社に必要な提案であれば、これを受け入れることを否定するわけではありません。 

 会社に資本を注入してくれる金融機関は、あなたの会社のためを思った提案をしてくれるでしょう。その提案が、自分の会社でも役に立ちそうだと考えてしまうことも理解できます。 

 しかしながら、どれだけ投資しても、何のために変化を取り入れるのか目的を誤ってしまえば、単に”仕事を便利にした”ことで終わってしまいます。 

 では、数ある取り組み中から、仕事を便利に行うための取り組みを真っ先に実施することは、最優先事項だったのでしょうか。 

 例えば、人手不足で働き手が減っている、作業ミスが頻繁に発生している、一部の作業が属人化してしまっている。あなたの会社にも、こういった課題はありませんか。十分に対策されていますか。 

 経営者にとって、最も優先すべきことは、会社を継続させていくことです。会社経営が成り立たなくなってしまえば、なによりも大切な従業員の暮らしさえ守ることが出来なくなるからです。 

 このような課題がもとで、事業を続けられなくなってからでは遅いのです。他社からの提案施策に飛びつくことで目先の効果は得られたとしても、本当に会社経営を継続するために優先すべき取り組みであるとは限らないのです。 

 では、あなたが、会社にどのような変化を取りこむべきかを決めるためには、どんな“判断基準”を持てばいいのでしょうか。 

 経営者として何を優先して手を打つべきなのか。これを決めるための判断基準は、「会社を続けて経営するために必要なことか」であり、「経営を阻害するような事業停止要因がないのか」を見つけることです。これらの課題は自分で見つけ出すことが必要です。事業を停止する要因には、会社を取巻く社会的な課題や、社内特有の課題もあります。従業員のスキルやモチベーションなど、会社の外からは見えない、あなたの会社特有の状況も把握した上でなければ、判断することなどできないのです。これらを把握して判断できるのは、施策を実施する当事者、つまり経営者であるあなただけなのです。 

 会社経営には、収益をあげることが絶対条件です。収益を確保するためには、製品やサービスを生み出し続けていかなければなりません。事業を行えなくなってしまうような事象が起きてしまえば、会社経営は行き詰ってしまいます。 

 事業を継続できなくなる課題が一体どこに潜んでいるのか。これを探し当てることは、経営者としての責任なのです 

 何のために変化を取り入れるのか。答えは、会社の経営を続けていくためです。だからこそ、今の仕事を大切にして将来に備えた準備をしていくのです。 

 将来像と将来に至るためのプロセスは、人任せにせず、経営者自身が思い描くのだということを、改めて見つめ直していきましょう。 

株式会社ライターム
コンサルティング事業部