先日、相談に来られた会社の方が、「世界情勢の動きが、会社の経営にこんなに影響するとは、正直あまり考えていませんでした。為替や物価の変動といった、今後の経営に不安要素を取り除くためにも、本気で変えるべきところに手を打たなくてはと考えています。結果を出すためにも、短期での目標設定を掲げ、資金と人材を全て投入してでも、会社をDX変革して行くつもりです」と仰っていました。

 確かに、一昨年の新型コロナウィルスの蔓延に始まり、ウクライナ問題等も影響しての原材料の不足・高騰、さらには円安と経営者の方にとって頭の痛いニュースは、枚挙に暇がありません。社会的な環境の変化を受け止めて適応するために、デジタル技術を利活用し、DXを進めようとされる企業も更に増えています。

 しかし、これまで人の手で事業運営を進めてきた企業にとって、効率化を生み出すために手作業のプロセスを自動化すること、紙で管理していた書類を電子化することは、システムもネットワークも刷新化し、人の運用も新しいものに作りかえることになります。それは、経営者が、現在の仕事のやり方を全て変えて本気でデジタル変革する覚悟を持つことを意味します。そのため、変革に辿り着くためにはあれもこれもやらなければならない、中途半端になってはいけない、失敗したくない、と考えてしまい、デジタル化を始めたくとも始められなくなってしまう経営者の方が多いです。

 それでも経営者はDXを目指すために一歩を踏み出す必要があります。ではどうすればよいか、それは、一度に全ての機能をデジタル化することを目指さずに取り組みを始めればよいのです。

 なぜなら、はじめから全ての機能をデジタルに変換する必要はないからです。デジタル技術を会社に取り込む強みは、後から何度でも変えて行くことが出来ることです。はじめは最低限の機能を土台として作り上げ、便利な機能やあればうれしい機能などの優先度の低い機能は、後回しにすればいいのです。

 コアとなる事業の根幹をなす業務で扱う情報をデータとして取り込むシステムがあれば、後からデータを処理する機能を追加することが出来ます。入力画面を作って、ミスを生み出しにくくすることも、入力処理を自動化して効率化を図ることも出来るのです。まず着手すべきことは、機能は最低限であっても、DXを目指す上での土台となるシステムをしっかりと作り上げることです。

 システムを作り上げる初期の段階で、無理をして、あればうれしい機能だからと取り込もうとしてしまうと、土台とならないシステムになってしまうこともあるのです。

 ある企業で、これまで紙に記録していた顧客との調整内容をデータベースに登録し、営業担当全体で顧客の要望、特徴、契約に至らなかった履歴等を共有できるシステムの構築が行われました。営業記録のデジタル化です。その時、営業担当があればうれしいと要望した機能をそのまま全てシステムに取り込むことにしたため、本来であればそれほど重要ではないメモのようなものまで、様々な情報が入力できる画面を用意しデータベースの拡張を行いました。しかし、結果としてそのシステムはあまり活用されず、営業記録の紙での記録は今でも続いています。活用されなかった一番の理由は、入力項目が多すぎて営業担当の方の入力負荷が大きく、記載内容もまちまちなため、共有すべき情報として価値が少ない情報になってしまったためです。営業担当で共有すべき最低限の項目を整理し、まずはそれだけに入力項目を絞ったシステムにしておけば、想定どおりに活用が進み、今頃は営業記録のデジタル化に行きつけていたかもしれません。

 絶対に必要な機能でないのならば、急いで作り込まなくてもよかったということです。しっかりと時間をかけて検討したうえで、後から機能として追加することでも十分対応できるはずです。

 デジタル化して会社を変えることは、社会的な環境の変化に適応するように変え続けることです。デジタル化出来ても、それで終わりではありません。何度も変えて行く必要があります。だからこそ、最低限の土台となる部分を作り、より良くするために何度も変え続けていく。

 はじめから全て対処せずに、後回しにする勇気を持つことも、会社の将来を見据えた戦略の一つになるのです。

株式会社ライターム
コンサルティング事業部