第7波と言われた新型コロナウィルスの新規感染者の数が減少傾向に入り、10月から全国旅行支援も始まりました。マスクなしの生活に戻る日も遠くないのでしょう。しかし、新型コロナの脅威が薄らいでも、円安や原材料の不足など社会的な課題が足枷となり、対策を迫られる経営者の悩みは尽きません。

 3年ほど前に、社内の基幹システムを導入されたクライアントの方が、「現状の課題を改善するためにシステム開発を進めました。プロジェクトの進行過程で、社内からの要望が、開始時より具体化されて、良いものに仕上がると期待していたのですが、開発状況が芳しくありません。進捗状況の遅れはないのですが、報告されてくる品質状況も悪化しています。プロジェクトのために用意した当初予算も大きく上振れしています」という悩みをご相談に来られました。

 システム開発の失敗は、現在の事業を改善するどころか、経営的にマイナスをもたらしてしまうことにもなりかねない重大な問題です。しかし、多くの企業で起こり得る問題でもあります。大手メディアの調査でも、システム開発の半数は失敗だったと言及されているのですから、ITに不慣れな会社では、上手にプロジェクトを進めることは難しいのだと言えます。

 では、品質や費用に、大きな影響が出る前に対処するためには、どうすれば良かったのでしょうか。

 リスクを最小化するためには、システム開発を担う会社だけでなく、発注する会社もプロジェクトを進めて行く計画を立てて、実施すべき作業プロセスをやりきることが重要です。なぜなら、プロジェクト開発が失敗してしまう原因の多くは、実施すべき作業プロセスがやりきれていないことにあるからです。

 冒頭で紹介した会社で起きた、品質不良の多発と費用が超過した原因は、要件を明確に決めきれなかったことにありました。プロジェクトの途中で要望を具体化したことは、言い換えれば要件の変更です。計画した内容が変わって、対応するための追加作業が発生したことで、品質も悪化し費用も超過してしまったのです。

 要件が変更されれば、作業プロセスとして、影響調査や設計の見直し、プログラムやデータベースの作り直し等、場合によっては再テストを行うことになります。スケジュールを見直して対処することもありますが、今回お話を伺った会社では進捗状況に遅れはありませんでした。つまり、作業プロセスが増えているにも拘らず、追加した作業も期間内で実施していたのです。無理をして追加作業を詰め込んでしまったから、作業の劣化や手抜きも起きて品質が悪化する要因を作り出してしまった。品質をあげるために、更に作業を追加する悪循環となり、開発を委託しているベンダが担当エンジニアを増やした場合、要員増による費用の増加が生まれてしまいます。また、エンジニアを急遽手配しても、必要なスキルを持った相応のメンバを揃えることが出来ないことは明白です。発注側としても、要件変更した内容を改めて確認・レビューすることが必要になりますが、予定外作業は社内的にも協力を得づらいものです。

 つまり、発注側から提示する要件が不確定なまま開発を進めてしまえば、品質も費用もスケジュールも、予定通りには進まず、プロジェクトが失敗してしまうリスクが高くなるということです。

 新しく作りたい製品や、変えたい機能が、どうあるべきかのイメージは、発注側の方々がお持ちのはずですが、イメージは、具体化しなければ開発を担当するベンダには、理解出来ません。

 昨年も、電子印が話題になりましたが、これをシステム化するためには、使っていくための条件を精査しなければなりません。アナログな押印をデジタル化するには、押印が必要な作業を全て洗い出します。誰が押印して、誰が承認するのかといった条件も揃っていなければ、システム化は出来ません。例えば、承認行為の押印は誰が実施するのかは会社のルールです。もし承認者が不在だった場合に、代理承認を可能にするのか、遠隔でも承認可能な仕組みにするのかなどは、会社のルールに従って、要件を明確にしなければ外部の開発ベンダには伝わらないのです。

 要件が不明確なままで、IT導入を進めても、必ず後から大きな手戻り作業が生まれてしまいます。

 以前関わったプロジェクトでは、要件が不明確だったためで、システムの運用開始が遅れてしまいました。システムの運用開始間近に行ったユーザ受入テストで、以下のような認識齟齬がたくさん見つかったためです。

・ 画面上の入力エリアが小さすぎる。
・ 確認画面に10文字程度しか表示されないため、全文の入力確認できない。
・ 夜間処理のエラー通知は、深夜であっても関係者に通知する必要がある。

 対応するために、運用開始を延期し、責任問題で揉めたのちに、数カ月運用開始を延伸したうえで、やっと本番稼動を迎えることになりました。もちろん、追加費用も発生しています。

 もし要求事項を明確に要件として開発ベンダに提示出来ていれば、こんな事態にはならなかったでしょう。ITを導入する取組みにおいて、発注側による要件の明確化は、欠かすことは出来ない大切な工程なのです。

 会社を変化させるIT導入では、どのタイミングで、誰が何をするのかを決め、決めたことをやりきることが、プロジェクトの成功に直結します。この作業プロセスを怠れば、運用開始の予定が遅れ、コストも超過し、使い物にならないシステムが出来上がってしまいます。

 あなたの会社のIT導入は、やるべき作業を明確にできていますか?

株式会社ライターム
コンサルティング事業部